21世紀に有力なグーグルの戦略。『フリー』【書評】
今更ながら、『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』を読みましたので、内容ご紹介します。
著者は、「ロングテール*」の名付け親、クリス・アンダーソンです。
*インターネットにおける販売手法。主な売上げを占めるヒット商品以外に、販売機会の少ないニッチ商品を幅広く取り揃えることで、全体の売上げを大きくすること
まずフリーの歴史として、カミソリの替え刃・ジレットにさかのぼります。そしてフリーを以下に大別し、フリーの世界を整理します。
1.直接的内部相互補助
2.三者間市場
3.フリーミアム
4.非貨幣市場
順に内容を見ていきます。
「1.直接的内部相互補助」は、お金を取る他商品と合わせて販売し、フリーを補填する方法です。例えば、「DVDを一枚買ったら、二枚目はただ」のような売り方です。
「2.三者間市場」は、第三者がお金を支払うが、多くの人々にはフリーとして提供されます。例えば、テレビやラジオなどです。メディアの制作物はタダ同然で消費者に提供され、広告主から費用を集めます。
「3.フリーミアム」は、フリーによって人をひきつけ、有償商品に誘導するものです。例えば、Evernoteの無料版でユーザーを集め、有料版で課金するのです。
「4.非貨幣市場」は、贈与経済、無償の労働などがあります。これは、対価を期待しないものです。例えば、ウィキペディアがこれに当てはまります。
またグーグルの例から、21世紀に有力な戦略を説明します。
グーグルは、以下のように発展してきました。
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- 1999~2001年 ウェブが増えるにつれ品質を落としていったほかの検索エンジンとは異なり、ますます磨かれていく検索エンジンを提供した
- 2001~2003年 広告主が自分たちでキーワードやコンテンツにマッチする広告を作るようにしむけ、もっとも目立つ広告位置をめぐって広告主同士を競り合わせた
- 2003~現在 事業を拡大し、さまざまなモノやサービスを生み出し、グーグルと消費者の結びつきを強くしている。広告モデルを他のモノやサービスにも適用していくのは当然の成り行きだが、消費者がいやな思いをするようなやり方はしない
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この歴史の中で、グーグルはフリーをベースに資産を築いてきました。
では、そもそもなぜグーグルではフリーが当たり前なのか。それは「最大の市場にリーチして、大量の顧客をつかまえる最良の方法だから」です。これをグーグルでは「最大化戦略」と呼びます。それが可能になるのは、情報市場で限界費用がゼロになるからです。
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何をするにしても、分配が最大になるようにするのです。言いかえると、分配の限界費用はゼロなので、どこにででもものを配れるということです
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大量の顧客にリーチすることは、目の前の売上につながるだけではなく、既存製品の品質向上、新製品の開発にも役立ちます。
例えば、だれかがブログをポストするたびに、グーグルのソフトウェアがそれをインデックス化します。それにより、グーグルの検索精度は向上します。
また、ユーザーがグーグルマップを使用するたびに、ユーザーの行動情報を入手できます。Gmailのメールやり取りは、ユーザー同士のネットワークを知るヒントとなります。これらがすべて、グーグルの製品開発や、広告販売に役立ちます。
これにより、自社の優位なポジションをさらに強固にしていくのです。
では、このような世界で、企業はどうしていったらいいのか。
それには、フリーの万有引力ともいえる法則がポイントです。「低い限界費用で複製、伝達できる情報は無料になりたがり、限界費用の高い情報は効果になりたがる」といいます。
この引力については、抵抗するよりも活かす方法を模索することが大事だと説きます。そして、潤沢になった製品には価値がなくなり、価値は他へ移ってしまいます。そのため、新たな希少を模索し、そちらでのマネタイズが有効な戦略方向性だといいます。