山崎元氏によると、ドルコスト平均法は気休め?『資産運用実践講座I』【書評】
今回は、楽天証券経済研究所 客員研究員の山崎元さんの『資産運用実践講座I』です。
山崎さんの特徴は、金融機関勤務のバックグラウンドを生かし、あえて中立的な主張をしているところです。というのも、商品を売りたい金融機関の視点で提供される様々な指標や根拠は、実は経済理論からは必ずしも正しくない、といったことを簡単な言葉で説明してくれているのです。
山崎さんいわく、本書は「お金の運用に関する『中級』のテキストブック」といいます。
資産運用の正しい知識が普及していないとの問題意識から、一般的な個人が独習できるよう、以下の構成で説明しています。
第一章 家計の投資余力を判定する
第二章 運用計画の作成方法
第三章 投資理論は有効か
第四章 投資理論と実際のマーケット
第五章 運用にまつわる誤解を解く
第六章 多様化する運用手段
第七章 金融機関とどう付き合うか
第一章から四章、また六・七章は、投資をしてきた人ならある程度理解されている内容かと思います。この本で私が注目した点は、「第五章 運用にまつわる誤解を解く」です。
例えば、「長期投資でリスクは縮小するか」に対して、「長期運用でリスクが縮小するというのはよくある誤解」と述べます。
日本経済新聞の記事が参照する「日本証券経済研究所」のグラフ及び説明を上げて、「読者を誘導する目的で掲載」されていると指摘します。
確かに、「日本証券経済研究所」のように運用期間を平均して年率で変動幅を見ると、運用期間が長くなるほどリターンの標準偏差は小さくなります。しかし金額でみると、運用期間が長いほど金額規模が大きいことから、期待値からのブレが大きくなります。
これを「長期投資するとリスクが縮小する」と主張するのは誤解、との指摘です。一般投資家としては、リターン(収益率)の振れ幅を小さくしたいのであれば、長期投資がよいのでしょう。ただ、もし金額的な振れ幅を小さくしたいときには、長期であることはリスク低減にはならないということです。
また、ドルコスト平均法についても、「有利でも不利でもない」と述べます。
ドルコスト平均法は、一定の間隔で定額ずつ同一銘柄を買い付ける方法です。これも、ドルコスト平均法とそうでない購入の損益比較をしながら、「ドルコスト平均法自体がリスクを改善するとかリターンを改善するというわけではありません」と説明します。
私の勤務先でも、持株会や確定拠出年金を勧める文章の中で、「ドルコスト平均法だから低リスク」と説明していました。
山崎さんは、ドルコスト平均法が「有利な方法」として推奨されてきた背景として、売り手側(金融機関)のセールスに有利だから、という点を挙げています。
そのうえで、「株式が長期的に必ず大きなリターンを生むはずだというようなことは誰も責任を持って言えることではないので、投資する本人が正しく理解した上で意思決定するのが本来の姿でしょう」と説明します。
またなぜ気休めになるかという点は、行動ファイナンスを用いて説明します。
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人間は自分が意識する基準点からプラスの場合とマイナスの場合では、同じ幅でも後者の方を強く(2倍から3倍といわれています)感じる傾向があり、投資に関する現状を認識する場合には、損益そのものもさることながら、自分の買いコストの株価と現在の株価の比較に注意が集中しがちです。特に株価が値下がりした時に、意識の中の基準点になりやすい自分の買いコストが低くなって、現状の株価との差が小さくなりやすいドルコスト平均法は気分の上で楽だという面があるのだろうと考えられます。また、方法を事前に「決めておく」と、後に損をした場合でも、自分の意思決定ではなく方法に責任があるという点で、気が楽だということもあるようです。
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私はまさに、上記指摘でいう事前に決まった方法のせいにして、「仕方がない」という言い訳にしています。その方が、あきらめがつくからです。
『本気でFIREをめざす人のための資産形成入門』の穂高唯希さんは、自分が心地よく投資を続けられるスタイルを構築するのが大事、といっています。その観点でいえば、たとえドルコスト平均法が有利なものでないにせよ、私にはこの方法で積み立てていくのがあっています。
『本気でFIREをめざす人のための資産形成入門』についても記事を書いていますので、よければご覧ください!